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営業マン蘇生の物語-おもしろい営業への道I-第五話

作成者 admin 最終変更日時 2010年03月16日 10時55分

第五話「手帳の工夫」

 たくさんの方のおかげで、面談技術、営業ストーリー、相手の出方の予測と重要な営業スキルをわたしは学び、亀のような歩みではあるが、一つ一つ腹に落ちていった。

 さて、ここまでは新規営業を中心に活動してきたが、入社して5年目に入ると重要なカストマーも担当するようになった。新規営業の時は攻めが中心だったが、守りも合わせて行わなければならなくなった。新規は、お客さまから受け入れてもらうことは大変だったが、ある意味で気楽だった。失うものがないからである。しかし、カストマーは違う。守って当然、へたをすれば先輩が築いてくれたお客さまを失うのである。カストマーを訪問すれば、話も聞いてもらえるし、お茶もでるが、その反面、雑用も多く、忙しい上に不安で仕方なかった。そして、不安は的中し、立て続けにミスをした。カストマーとの約束を忘れ、お届けすべき消耗品を発注せず、約束の期日に届かなかったのである。初めはコピー用紙、次はトナー(複写機の文字の元となる黒い粉末)であった。どちらも無いとコピーはとれない。特にトナーはメーカーごと、機種ごとで、違うので、隣から借りてくるということがしづらい。用紙の時は、翌日に届けることで解決したが、トナーはそうはいかなかった。私にとって重点のカストマーから「発注したトナーがまだ届いていない。コピーはトナー切れでストップしている。今日中にコピーする重要書類が山積みで、なんとかしてほしい」という連絡がオフィスに入った。わたしは外出中だった。そのカストマーまでは車で約1時間半の距離だったが、わたしの上司が緊急配送の依頼をかけ、たまたまその日に同じ方向に配送便が出ていたので、すぐお届けでき、事なきを得た。この電話をしてきたお客さまは大変厳しい方で、その上コピー機の入れ替えを間近に控えていた。もし緊急配送ができなかったら、大きなクレームになり、競争相手が参入してくる可能性もあった。

 外出先から会社に定時連絡※を入れ、わたしは、事務の方から、既に対応済の状況を聞いた。すぐにこのお客さまにおわびの電話をしたところ、既に消耗品が着き、大きな問題にならなかったことが確認できた。ほっとすると同時に、上司からの叱責を予想し、暗い気持ちで帰路についた。帰社すると、すぐ上司のところへ行った。上司からは、「だからお前はだめなんだ。もう重要なカストマーは任せられない」といわれることを予想してびくびくしていた。しかし上司からの言葉は予想を反するものだった。

 「おまえほどのベテラン営業がどうしたんだ。なにか訳でもあったのか?」上司は穏やかな口調で言った。普段は、厳しいコメントをする上司だった。わたしは驚いた。叱責のはずが、わたしを一人前と認めた上での上司の発言だったからだ。わたしは心から自分を恥じた。そして、うれしかった。「おまえほどの…」という上司の言葉が、わたしの頭のなかを駆け巡った。

 その時のわたしの対応は、小さな声で「いいえ、わたしのケアレスミスです。二度と失敗しないようにします」というのが精一杯だった。しかし、ちいさな声だったが、心の底から、とても強く決心できた。「もうミスはしない」そのために自己管理のしかたを徹底的に考え、見直した。

 それまでのわたしは、スケジュールは卓上版のカレンダーに大雑把なところを記入し、約束事は10cmくらいのメモ用紙に記入してしていた。自分の日常の行動を振り返ってみると、メモの紛失はしょっちゅう、さすがにお客さまとの約束忘れは少なかったが、社内での約束忘れはしばしばだった。また、お客さまへの訪問計画はどちらかというと、行き当たりばったりであり、計画と遂行という仕事の基本からはほど遠い状況であった。「だから、いつもばたばたして、あわてることが多いんだ。いつになっても一人前扱いされないし。おまえほどのベテランとみんなからも言われるようにしよう」と思った。

 半年くらい試行錯誤して結局たどりついたことは、開くとB5サイズになる縦長ダイアリーを活用して情報をなるべく一元管理することだった。ダイアリーは開くと左が一週間の予定表、右がメモ欄だった。毎週金曜日には翌週の予定をまず入れる。アポイントが取れていなくても、自分の意思として予定する。もちろん訪問計画に合わせた準備事項も予定する。月曜日の朝ダイアリーを開き、活動開始する。活動のメモは右ページに記入し、次の訪問予定日を考え、ダイアリーに記入する。訪問日が確定できない場合は、訪問の予定週を決め、その週のダイアリーの上余白に記入する。そのための準備項目も記入する。

 簡単なしくみであったが、大いに機能した。使ううちにダイアリーは真っ黒になっていった。わたしの行動計画は週間単位をベースにしたものであったが、計画と遂行が回り始めた。まず計画して実行してみる、そして次の一手を考えるという循環がおもしろくなってきた。お客さまはもちろん、社内の約束も忘れることもなくなり、自分に対する信頼感が改善されていくことも実感できた。そして、週間計画から月度計画・半期計画・年度計画へと、未熟ではあったが、自分の意思で計画を立てることがすこしずつできるようになっていった。計画はきらいだったわたしはすっかり計画好きになっていった。

 思わぬメリットもあった。いままで、週末でも仕事のことが頭から離れなかったのが、計画してダイアリーに記入すると、土日の2日間は仕事をきれいに忘れ、リフレッシュできるようになった。 さて、新規開拓を中心に活動する営業マンの計画立案は、意外と難しい。カストマー中心だと、なにかと用事ができ、自然とスケジュールが埋まっていくが、新規のお客様ではなかなかスケジュールが確定しないからである。しかし、その反面、自分で主体的にスケジュールが組める。自分の意思で立てた計画を遂行するうちに、やっと自己管理もできるようになり、営業としての最低限の心構えとスキルが備わってきた。

 このきっかけになったのは、上司からの「おまえほどの…」という言葉である。わたしに自ら変る力を与えてくれた。この言葉は、わたしが後年営業マネージャーになった時の原点となった。

※定時連絡:今なら携帯電話ですぐ連絡がとれるが、当時はまだポケベルもなく、一日に最低2回午前と午後定期的に営業マンは会社に電話を入れていた

第五話終わり