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営業マン蘇生の物語-おもしろい営業への道I-第八話

作成者 admin 最終変更日時 2010年04月16日 16時04分

第八話「顧客セグメント」

 ベテラン営業として、目標値をなんとか毎期クリアしながら、順調な営業活動を続けていたころ、あるマネージャーに出会った。新任マネージャーとしてわれわれのチームの係長に就任したOさんである。与えられたリスト(カストマーと新規対象先)に対して全力で営業活動を行えば良いと思っていたわたしに、顧客セグメントという考え方を教えてくれたのが、彼であった。その時のことをお話しよう。


figure8-1 O係長が赴任して半年目の期初に、担当カストマー1社ごとの営業利益2期分の推移と自社がいただいている売上とシェアとをまとめてほしいという指示が来た。期初には、各カストマーや新規対象先の攻略計画の見直しや販売計画の作成やらで忙しいわたしは反発した。しかし、業務命令ということで、いやいや時間を割き、ぶつくさ言いながら、指示された表を完成した。当時の担当カストマーは自社のコピー機やファクシミリ・システム商品をかなり使用いただいていたので、これらを合計するのは大変だったし、シェアを出すために競争相手の台数をカウントするのも手間がかかった。各社の営業利益については四季報や帝国データバンクを使って、なんとかまとめた。表ができたら、4象限のチャートにまとめてみろと言われた。「こんなふうに作るのだ」とO係長が以前作成したチャートを見せられた。そのチャートを真似て作ったのが、図1である。縦軸は、お客さまの成長度合いを営業利益という指標であらわしている。横軸は、自社との取引レベルをシェアという指標であらわしている。もちろん本来は、縦軸、横軸とも他の指標を組み合わせた形で、お客さまの成長度合いと自社との取引レベルをより正確に表現すべきなのであろう。しかし、シンプルではあるが、このチャートはわたしに多くのことを与えてくれた。

 まず第一点は、お客さまへのリソース投入(主に自分の時間であるが)の優先順位を明確にしてくれたことである。それまでのわたしは、前述のように、与えられたリスト(カストマーと新規対象先)に対して全力で営業活動を行えば良いと考えていた。お客さまに対する自分の時間投入の優先順位は、受注できる可能性から決めていた。ようするに、早く売れるところに重点化していたのである。ところが、中期的に見たら、成長するお客さまに重点化すると、より少ない時間で継続した業績を達成できるということに気づかせてくれたのである。

 二点目は、それぞれのポジションのお客さまに対する活動内容が大きく異なることに気づいたことである。最も重要なお客さまはⅠのポジションであった。ここのA社、B社にはいままで以上に積極的に多様な商品を組み合わせて新たな提案を行い、お客さまの満足度を高め、自社の競争優位を強固なものとする作戦をとった。お客さまの業務改善につながるのであれば、時には自社の売上が減るような提案をしたこともあった。結局、お客さまの成長と共にわが社の売上・利益はどんどん伸びていった。このゾーンのお客さまは、わたしの業績達成の要となった。

 次に重要なお客さまは、Ⅱのポジションである。H社、I社、J社は成長性は高いが、競合が優位を保っているわけであるから、まずは一点突破できる競争力ある商品を多少強引に提案していった。当然、複写機以外のものも活用した。ビデオ教材を一点突破に使ったこともあった。また、お客さまの担当者を飛び越えて決裁者に面談したりといった失礼なことも行った。もちろん必要があってのことだが、担当者の方の気分は害したようだった。強引に一点突破の後は、御用聞きのようにお客さまに尽して、関係を良くしていき、他社のシェアを徐々に侵食していった。こういう時は、京都での新規開拓営業で培った人懐こさが役にたった。このゾーンのお客さまは、わたしの翌期・翌々期の業績達成のベースとなった。 難しかったのは、Ⅳのポジション、特にD社である。お客さまの成長性は低いが、現状の売上は大きいからだ。ここは、いずれ競合との価格戦争になることを予測して、コスト作戦をとったところもある。いまの売上規模をできるだけ維持するために、段階的値下げ提案を行ったのである。お客さまの担当者は、経営者からのコスト低減指示にさらされているから、喜んでくれた。毎年少しずつ、価格が下がるので、社内的にも顔が立ったようだった。いつまでも続けられる作戦ではなかったが、売上の延命をしながら、複写機以外のビジネスを探っていった。

 Ⅲのポジションは、自らの営業活動時間の節約を心がけた。限られた時間で最大のパフォーマンスを要求される営業としては、ここはアシスタントと電話を活用して、少ない活動時間で現状の売上・利益を確保することを目指した。ただし、このポジションの企業が成長軌道に乗る可能性もありえるので、お客さまとの人間関係の維持には気を配った。

 このようにOさんがもたらした顧客セグメントは、「売れそうなお客さまに時間をかける」わたしのスタイルを、「売れるしくみをお客さまとの間に作っていく」というスタイルに変えていってくれた。お客さまへの投入時間配分と活動内容が変わり、今期の業績・翌期の業績・翌々期の業績を見据えた活動ができるようになっていった。

 顧客セグメントを経験することで、「営業は科学である」というわたしの気持ちはますます強くなってきた。

 また、後日、マネージャーになった時にこの考え方(マーケティングそのものであるが)は大いに役立った。

 ※この顧客セグメントの縦軸・横軸の切り口は業界によって異なる。業界の特性に応じて、複数の切り口(定性的なものも定量化しながら)を含めて指数化すると、より実情に合ったセグメンテーションが可能となる。

第八話終わり