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営業マン蘇生の物語-おもしろい営業への道I-第十話

作成者 admin 最終変更日時 2010年05月18日 17時27分

第十話「CVM(顧客価値創造型営業)」

 

 前回、第九話の「ソリューション営業との出会い」では、「お客さまの潜在的な課題に関与するやりかたについては、明確な答えはなく」とお話しした。実は、この答えは、大手アカウント担当営業から販売会社の営業所長を経て、営業教育部門に配属になった後に、やっと見出した。

 営業所長時代も含めて営業マネジメントでの体験と気づきについては別の機会でお話しするとして、今回は、ソリューション営業のしかたの一つの流れを発見したできごと、そして私の会社員人生をも大きく転換させてくれたできごと、CVM(顧客価値創造型営業)プロジェクトについて話そう。

 大手アカウント担当営業から6年後、わたしは営業教育トレーナーとして富士ゼロックスのマネージャー・セールス向けデジタルネットワークソリューション研修など多くの研修開発・実行プロジェクトに参画していた。そして、そこに携るトレーナーに共通の疑問があった。「富士ゼロックスグループの最大の強みは営業力である」と我々は自負していたが、「ほんとうにそうなのだろうか?」という疑問である。デジタルネットワークソリューション研修など新分野への進出に関わるトレーニングは、どうしても知識領域の強化が中心になる。そのせいだろうか、富士ゼロックスのマネージャー・セールスがお客さまの事業や業務に対してあまり関心を持っていないように思えた。第九話「ソリューション営業との偶然の出会い」でも話したが、大きなビジネスを発掘するためには、お客さまの潜在的な課題に関与することが不可欠である。事業や業務に対する関心が薄いということは、お客さまの潜在的な課題に関与する可能性が低くなるということである。富士ゼロックスのトップセールスは伝統的にこの潜在課題発見・関与の力が強く、それゆえ大型の商談に参画できていた。「この強みが失われつつあるのか?」この危機感をもとにわれわれは、デジタルネットワークソリューション研修の効果測定とセットで、営業現場の営業力調査を企画・実施した。

 調査は、デジタル営業力と基盤となる営業力の2点から企画設計され、実行に移された。各トレーナーが対象となるセールスの1日の営業活動に張り付き、本人と上司からはヒアリングし、お客さまとの面談状況を観察するといった内容である。セールス本人がもっとも自信のある提案書のコピーも回収した。対象者は、当時の各地域のお客さまを担当する全国の支店の半数を選び、そこに所属するトップセールスとした。部内の企画検討会を通し、現場の了解を取り、調査は行われた。

 調査結果をまとめると、デジタル営業力は研修で取り組んだ成果がはっきりと出ていた。ただし、基盤となる営業力はわれわれの危惧していることが、一部当たっていた。お客さまの事業や業務への関心が低くなっていた傾向が出たのである。ただし各支店のトップセールスが、お客さまの事業や業務を知る方法まで忘れてしまったわけではなかった。質問の仕方や決裁者とのコミュニケーションなどは、優れていた。結局、「大きなビジネスを発掘するためには、お客さまの潜在的な課題に関与することが不可欠である」ということをもう一度思い出させることとその今日的な方法論を提示すればいいということが結論だった。そして、幸運にもこの調査で、このことを実践しているセールスにも出あったのである。彼の行動は、われわれの社内ベンチマーキングの対象となり、数日に渡って徹底的にその行動を洗い出した。彼は、ネットでお客さまの新聞記事を入手し、そこから潜在的な課題を発見して、それに関与した提案を行っていた。その活動は、お客さまから高く評価され、高い実績に直結していた。

 われわれは、彼の活動を元に研修のコンセプト開発を始めた。営業力調査結果を前に、プロジェクトメンバーで話し合っていると、営業教育部門長がやってきて、「おまえら、お客さまの課題を知りたければ、カストマーズカストマーに着目するんだな」とヒントを出してくれた。この一言がきっかけとなり、CVM(顧客価値創造型営業)の基本コンセプトとなる5Cモデルが考案されていった。

10話図 5Cモデルとは右図のように、戦略立案の3CのCustomerにCustomer’s Customer とCustomer’s Competitorを加えたものである。

 部門長の言っていたように、お客さま(Customer)は、お客さまのお客さま(Customer’s Customer) と競合(Customer’s Competitor)から様々なプレッシャーを受け、それがもとで変化している。そして自社(Company)はそのお客さまに価値を提供しながら、競合(Competitor)を差別化していくという構図が、この5Cモデルから見えてくる。このモデルの上半分の3Cは、お客さまの変革の仮説を立案し検証を行うための道具にもなった。「お客さまのお客さまは何を求めているのか?」「お客さまはその期待にどう応えようとしているのか」を徹底して考えるのである。そこで必要な情報は主にインターネットから収集し仮説モデル(「ビジネス構造モデル」と名づけられた)を作成した。

 われわれはこのモデルを使って、実際の新規取引対象先に検証のための営業活動を行ない、成功した。この仮説があるとお客様が「おしゃべりモード」になって、たくさん話していただけるのだ。その結果、お客さまの問題・取り組みテーマが明らかになり、ビジネスチャンスが生まれ、商談へとつながっていったのである。もちろん受注も取れた。第二話でお話しした「聴くこと」で可能となる「後だしジャンケン営業」の高度化され洗練された方法なのだ。「これはいける。富士ゼロックスの営業を新たな段階に変身させることができるかもしれない」そう思った。富士ゼロックスの営業部隊に「お客さまの潜在的な課題に関与することが不可欠である」ということをもう一度思い出させることとインターネット情報探索をベースとした仮説立案・検証という方法論を提示するために、われわれはCVM(顧客価値創造型営業)研修の開発に着手した。これから、半年かけて開発したCVM研修は、一年かけて全社に展開された。われわれがここで営業部門に提案したことは、徹底した顧客志向でもあった。営業はどうしても自社の商品・サービスからお客さまを見て活動するが、CVMではお客さまを自社の商品・サービスに関係なく、そのまま理解する。その上で、お客さまの課題に合わせて、自社の商品・サービスと様々なノウハウと他社商品も組み合わせて提案していくというストーリーを提示した。このストーリーをケーススタディに仕立て、ケース上のお客様と面談しながら営業活動を進めるという流れで研修を実施した。この研修は、受講した多くのセールスとマネージャーが評価してくれ、「こんなおもしろかった研修は入社以来初めてだ」や「現場に戻ってからの活動が楽しみだ」など今までの研修とは違うコメントを多くもらった。そしてこの手法は、各地で実践され、多くの大型商談が発掘され受注につながった。でもなによりうれしかったことは、「お客様との面談がおもしろくなった」、「お客様が夢中になって話してくれた」、「お客様が自分が次に訪問する日を待っていてくれる」、「『さすがゼロックスは違う』と言っていただけた」など、多くのセールスとマネジャーから「営業がおもしろくなった」というコメントが多数寄せられたことだった。

 しかし、すべてのお客さまにCVMを行うわけにはいかない。お客さまの成功と自社の利益を両立させるためには、顧客セグメンテーションが必要だった。お客さまの魅力度(成長度・潜在購買力)と購買方針がセグメンテーションの重要な指標となった。CVMは、お客さまを理解し、仮説を立案・検証するためにある程度の時間の投資を行う。したがって、投資に見合うリターンの可能性があるお客さまをまず魅力度という観点から選ぶ必要があった。購買方針とは、「お客さまが営業の活動自体に価値を認めて頂けるか」とうことである。いくら課題を発見し提案活動を続けても、その価値を認めていただけないお客さまには、CVMの活動は継続できなくなる。この顧客セグメンテーションがうまくできたチームが多くの成功事例を継続に輩出し成功を納め、CVMは組織内に浸透していった。気がつけば、入社時に憧れたロールモデルの営業教育トレーナーとして自社の営業変革プロジェクトで活躍できたのである。

 さて、われわれはCVMで会社になにを残したのだろうか?少なくとも、CVMは受講した営業マネージャーとセールスの心に顧客志向という炭を残したと思う。状況が悪いときは、炭の炎は見えないが、酸素が供給されればすぐ燃え盛る。われわれは、総論賛成・各論反対に陥りやすい顧客志向を実践するための具体的継続的な答えの一つを出したのだと思う。そして、CVMでもっとも成長したのは、トレーナーだったかもしれない。CVMの営業検証活動と研修開発・展開、現場での定着活動と様々な状況の中で、マーケティング・企業変革・リーダーシップ・財務知識など実に良く勉強した。そして自分の市場価値ということを考え始めたのもCVMからだった。やがてわたしはこの時の体験を糧に、社内公募制度を活用して関連会社に異動し、営業変革コンサルテーションの世界へ飛び込んだ。そして今は個人事業主として活動するに至った。CVMで学んだこと、「顧客志向マインドの醸成・様々な経営知識の習得・変革プロジェクト体験・営業のおもしろさなど」はコンサルタントとしての土台となった。思い起こせば、「日本一売れないセールス」から出発したわたしが、営業変革のコンサルテーションを行うなんて夢のようである。しかし、苦しんだこと、学んできたことは遅い歩みだったが、すべて血となり肉となった。無駄なことは一つもなかった。結局、もっとも大切なことは、体験と人から学ぶ学習力かもしれない。だからこそ新たなことにチャレンジすることは価値がある。

 その後私は関西地域において、いろいろな業態のお客さまにCVMを具現化し定着するという挑戦を行った。富士ゼロックスの営業教育部門から始まったこの営業変革は、電機メーカー・電子部品メーカー・食品メーカー・医薬メーカー・商社・広告代理店・ゼネコン・通信・印刷業・金融と幅広い業種・業態に広がり、おもしろい営業を実感した営業マンがいまも増え続けている。

第十話終わり

もいちろうが語る「営業マン蘇生の物語-おもしろい営業への道Ⅰ」完