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営業マン蘇生の物語-おもしろい営業への道II-第七話

作成者 admin 最終変更日時 2011年10月27日 16時47分

第7話「再び現場マネジャーへ」

 

 私は親会社に復帰し、販売会社での経験を買われ、営業教育部門に配属された。そこで7年間営業教育の企画・開発・実施と社内コンサルティングに携わり、2000年から、オフィス機器のコンサルティングを行う関連会社に希望して異動した。

そして、そのコンサルティング会社の地方支店に支店長として赴任した。メンバーは10名で業績は良かった。支店には顔見知もおり、過去のマネジャー経験も自信になっている。私は期待に胸ふくらませて、新天地に向かった。

 


 ところが……現実は甘くなかった。私が着任した途端、4月は予算の50%しか行かない。この支店の地方経済が大きく地盤沈下し、お客さまからの受注が大幅に低下したのである。

 


 着任早々緊急事態に直面した私は、とにかく今進行中の案件の数字を増やすよう指示した。あるメンバーは、事務処理の作業効率を改善するというお客さまの要望に対し、在庫管理や物流も含めた基幹システムの拡張といった追加提案を行なった。つまり、当初お客さまが予定していなかった部分も含めた大きな提案をすることによって、売上をアップさせようとしたのである。

 このやり方は、うまくすれば喜ばれるケースもあった。だが、お客さまの予算に合わなければお客様からの信頼感は減り、競合に負けることもありえる。その確率は次第に高くなっていった。

 


「あのぉ、支店長、○○社さんにもほんとに追加提案するんですか?」

 ある日、メンバーの一人は私にそう尋ねた。

「うん、可能性のある部分で提案をふくらませてみて」

 そう言いながら、私は薄々気がついていた。メンバーは、自分の指示に疑問を持ち始めている。かといって、メンバー自身に良いアイデアがあるわけではない。私はこの方法を進めざるをえなかった。

 


 一方で、私自身は一部のお客さまに対し、別の活動を進めていた。前にいたオフィス機器メーカーの営業教育部門の元同僚と組んで、お客さまの営業活動に役立つよう、研修をセットにしたコンサルティングを行なったのである。私自身がお客さまの社内で講師に立つこともしばしばあった。

 


 ある日、私はメンバーの一人にこう言われた。

「支店長、なんでもっと席にいてくれないんですか? 相談したいこともあるんですけど……」

「ごめん。でも、前に説明したよね、今、本社と協業するビジネスの準備をしてるんだ」

 メンバーは黙っていたが、その表情からは納得していないことがはっきりわかった。

 


 事務の女性にはこんなことを言われた。

「支店長はそのうち本社にお帰りになるんですか?」

「えっ! そんなこと考えてないよ。どうして?」

「だって、よく本社の方と仕事なさってるから……」

 あぁ、そうかぁ、と私は思った。本社との仕事は支店の将来的なビジネスのためにやっていたことだったが、メンバーには支店から逃げ出すつもりだと思われているのだ。

 


『あぁ、困ったなぁ……』

 現場復帰直後、私はまたまた大きな壁にぶつかった。

 


 業績はちっとも上がらない。赴任して半年後、私は地方出張で来ていた同期の山田くんと飲みに行った。山田くんとは気が置けない仲なので、私は今の悩みを話してみた。

 


「うーん、たまたまタイミングでそうなったんだろうけど、メンバーにしたら、おまえが来たから悪くなったとかって思うんじゃないの」

「ちょうどオレが来てからだもんな。でも、反抗するとか、そういうことはないんだよ」

「でもさ、結局、おまえは支店のメンバーと一緒に苦労してきたわけじゃないだろ。野球もそうだけど、調子悪くなってきたチームってのは、戦犯探しが始まるもんだよ」

 


 居酒屋のテレビでは、リーグ最下位のチームがまたリードされていた。こういうチームでは監督が悪いのなんのという話になり、モチベーションがどんどん下がる。私は山田くんの言葉をかみしめていた。

 


 翌日の夜、私は残業でメンバーの東山くんと二人きりになった。東山くんは支店の中で一番優秀なコンサルタントだ。私はふと、東山くんに声をかけた。

 


「東山、おまえの前の上司だったら、この支店の状況をどうすると思う?」

 東山くんは少し考えてから言った。

「あの方でしたら、今の状況を全部受け入れて、あんまり無駄なことはしないと思います。将来に向けた布石をたくさん打つでしょうね」

 


 その言葉は私の胸にグサリと突き刺さった。東山は状況を冷静に見ている。本人の意見を求めたらこうは言わなかったかもしれないが、優秀な東山のことだ、きっと元上司の名を借りて自分の本音を言ったのだろう。

 


 自分だけが将来に向けた活動をしていたけれども、本当は組織全体としてこの活動をしなくてはいけないのだ。

業績悪化に対してとった私の方法は、要するに“悪あがき”だった。営業にはいわゆる「きょうの飯」と「明日の飯」の活動があるが、私がメンバーに指示したことは「きょうの飯」だけだった。

それは結果的に未来への活動を阻害するものになっていた。苦しくても歯を食いしばり、どこかで線を引いて、将来に向けた活動も並行して行なう必要がある。そして、それはマネジャーにしか決断できないことだった。

 私はもう一度、自分で自分を励ました。『よし、もう小細工はやめよう。たとえ成果が出るのが半年後だとしても、みんなで頑張ってみよう』


第七話終わり