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営業マン蘇生の物語-おもしろい営業への道II-第二話

作成者 admin 最終変更日時 2010年10月12日 08時24分

第2話「落下傘マネジャー」


 私は、オフィス機器メーカーから販売会社に出向し営業所長となった。初めてのマネジャーである。期の初日、私は、上司の部長とともに営業所に行った。「今月からみなさんと一緒に仕事する渡辺です」そう言った途端、私はみんなの刺すような視線を感じた。メンバーは18名、比較的大所帯である。その18名全員が、口にこそ出さないが「なんだ、こいつ」という目で私を冷ややかに見ていたのだ。

 私が在籍していたメーカーである親会社と関連会社との間では、日常セールス同士の交流がほとんどない。つまり、私は誰一人知らない営業所に、いきなり所長として赴任したわけである。『営業所のメンバーにはオレの素性がわからないし、不安もあるんだろうな』と、私は思った。また、そもそも関連会社の社員が親会社に反感を持つ、というのはよくある話だ。いきなりやって来て社内をさんざん引っかき回した揚げ句、何も成果を残さずに2、3年でさっさと帰っていく、という話はよく耳にする。彼らにすれば「またか」という思いもあるかもしれない。そう思いながらも、私は孤立感を味わった。事務所でお昼のお弁当を食べる時も、私はひとりでぽつんと食べるはめになった。メンバーはミーティングテーブルでがやがやと楽しそうに食べている。ある時、私はお弁当を持ってすっくと立ち上がった。

「ちょっと横に行っていい?」 私はメンバーの横に座った。一瞬、座が白けたのが私にもわかる。しばし沈黙が流れたあと、セールスの一人がみんなに話し始めた。

「この間○○さんとこに言ったらさぁ、××会社の△△さんと学校の同級生なんだって。で、紹介してもらうってことになってさ……」

「オレ、◎◎社に行く時はいつもあの角の店でコーヒー飲んでから行くんだ。そうするとなぜかうまく行くんだよね……」

 私はコミュニケーションをとるタイミングを逸してしまった。私には、○○さんも××会社も、あの角の店もわからない。そのうち、テーブルの奥のほうでは、前任の営業所長の話題が聞こえてきた。「今度のとこは大変なんだって……所長も気の毒だよね……」

 前任者は任期の途中、それもかなり早めの時期に異動した。この営業所の業績は悪く、それを立て直すために私が呼ばれたのだが、結果的に私が前任者を追い出したようにメンバーの目には映っているのだろう。そんなメンバーの心情は私にも薄々わかった。

 私はふと思った。

『なんだか、一人で敵地に落下傘で降り立っちゃったみたいな気分だなぁ』

 私は着任早々、最初の壁にぶつかったのである。

 ある日、私はセールスの北島くんに同行を求められた。そのお客さまは、競合の製品に替えようと、解約の意向を示しているという。訪問前、私は北島くんに尋ねた。

「君はオレにどうしてほしいの?」

「とにかく解約を止めてほしいんです」

「じゃ、きょうはどういう話の流れに持っていこうと考えてる?」

「いや、そこはもう所長のお力で……」

 私はぴんと来た。『ははぁ、要するにオレのお手並み拝見ってわけだな』

 もし、現場で私がうまく処理できなければ、「駄目だよ、あいつ、全然駄目」という具合に事務所で話の種にしたいのだろう。

「新しい所長を連れてきました」

 お客さまに私を紹介したあと、案の定、北島くんは一言も発しない。きょうの面談相手は総務部長である。私はセールス時代に地元企業の経営者と商談した経験を活かし、ひとりで対応することにした。

「今朝の大江戸経済新聞に御社の同業の○○社の新戦略が出ていましたね。御社もこの戦略に対応する手を打たれるんでしょうね」

「そうなんですよ、実はそれが頭の痛いところでしてね……」

 面談開始早々、隣で北島くんが驚いている気配がわかる。

「……そういう競争の中で、ちなみにどうしてうちの製品を解約しようとお考えなのですか?」

「いやね、これからの競争は長丁場になりますしね、社内サービス部門としても、オフィス機器のトラブルを減らして、営業部門の競争力強化に貢献したいのですよ。」

「そうしますと、機械がトラブルなく動き、営業部門の競争力強化に貢献できるような社内サービスをしたいということなのですね」

「まぁ、そうですね」

「もし、トラブルなく安心してお使いいただけ、おまけに営業部門への社内サービスを向上することができたら、まだうちもご検討いただく余地がありますでしょうか?」

「そうですねぇ。お宅とのおつきあいも長いですしね」

「それでは、サービスの担当と一緒に、保守面での対応をもう一度見直した上で、営業力強化へのお役立ちも付加して、再度ご提案させていただきます。つきましては……」

 見なくても、北島くんの私に対する視線がどんどん変わっていくのがわかった。

私は、お客さまとの対話の土俵を『競合オフィス機器との比較』から

『お客さまの競争力強化』へと転換し、お客様のニーズの優先順位を変えていったのである。

 以来、北島くんの態度は変わった。私はメンバーの同行を続け、自分の営業ノウハウを伝えるようにしていった。さらに、誰よりも早く事務所に来て、最後に帰るようにした。営業所の誰が見ても、所長が一番働いている、という状況をつくらなければ、みんながついてこないだろうと思ったからだ。この頃、新米マネジャー私の頭には、いつも一つの言葉があった。「率先垂範」である。

新米マネジャーの私は、自分の力でメンバーを引っ張ることしか考えられなかった。

第二話 おわり