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営業マン蘇生の物語-おもしろい営業への道II-第三話

作成者 admin 最終変更日時 2010年12月13日 08時13分

第3話「居眠り会議」

 

 営業所長として着任してから、数ヶ月、メンバーとはコミュニケーションもとれるようになり、営業所の運営は順調に滑り出した。しかし肝心の業績は振るわなかった。首都圏に30ある営業所のうち、成績は下から5番目である。私はさまざまな施策を立て、営業所を何とか立て直そうとしていた。が、業績はなかなかついてこない。しばらくして、私はあることに気づいた。営業会議でメンバーが寝る、とにかく居眠りするのである。


「今月の営業所の業績は……」

 会議が始まると、1人、2人と居眠りするメンバーが出てくる。この営業所では3、4人でチームを編成し、会議でも各チームのリーダーが活動発表を行なっていた。

「今月は目標10台でしたが、7台しかできませんでした」

「その理由は?」

「訪問量が足りなかったと思います……」

 発表は当たり前の報告ばかりで議論にならない。自分のチームのリーダーが発表している時はさすがにメンバーも寝ないのだが、ほかのチームリーダーの発表になると……寝る。

 メンバーは眉をつり上げ、なんとかまぶたを引っぱり上げようと、むなしい努力をする。ガクッと頭を落としては、ハッと顔を上げる。これをいつも決まった人ではなく、あちこちでいろいろな人がやるのだ。

「おい、寝るなよ!」

 ムッとして私が大声を出す。言った瞬間、メンバーは目覚める。

私が翌月の施策展開について話し始めると、さすがに居眠りはしないが、質問もなく、議論もない。彼らの目は開けているが、脳は寝ているようだった。

 営業会議は夕方からスタートするため、初めは私も、皆一日の活動で疲れているのだろうと思った。だが、この状況が3か月間、3回の営業会議で続いたので、なぜこんなに眠くなるのだろうと私も考えた。

『……ひょっとして、この会議は彼らにとって何の意味もないんだろうか……?』

 私は思い切って上司の営業部長に相談してみた。同じように親会社から出向し、私の状況もよく知っている人で、私はこの部長に信頼を寄せていた。

「おまえんとこ、いろんな施策を打っているみたいだけど、徹底されてないんじゃないかぁ?」

「は、指示してるんですけどね」

「言うだけじゃ変わんないぞ。おまえ、どんな工夫してるんだ?」

「毎月の営業会議ではしっかり説明していますし、同行もガンガンしてますが……」

「メンバーの身になって考えてみたらどうだ。その上で、一度メンバーに聞いてみろよ」


 部長との面談後、メンバーの立場になって、自分が主催する営業会議をシミュレーションしてみた。毎月の営業施策を説明する私を映画を見るように部下の目線で想像するのだ。メンバーからしたら、そんなにハッとする内容があるわけではない。リーダーまでは発言する機会があるが、自分たちはただ聞くだけ。

『確かに、メンバーも眠くなるわなー。1日動き回って、疲れたところで、一方的に話を聞くだけだもんなー。それも所長やリーダーが考えたことの押しつけだしなー。』

『これじゃ、眠くなって当たり前だし、施策も腹に落ちないってことか……』


 ある日、私は営業会議で業績報告をしたあと、こう言ってみた。

「なかなか数字が行かないねぇ。来月はどうやったら売れるか、ちょっとみんなで考えてみよう」

 私は大きめの付箋を用意し、来月これをやれば売れるかもしれない、という対策を1枚に1つずつ、1人20枚書いてもらうことにした。壁に模造紙を貼り、皆が書いた付箋をそこに貼っていく。内容別に分類し、似たようなものは重ねる。

 私が取り入れた手法は、皆の意見を出すためのKJ法だった。以前マネジャー研修で体験したことがあったので、思い出してやってみたのだ。結果は意外にもメンバーが一生懸命になった。

「これは訪問量に関することだから、こっちのグループと一緒ですよね」

「来月は新製品が出るから、この施策はいいと思うな」

 いつもはすぐ寝るメンバーが立ち上がり、あれこれしゃべりながら付箋を張り替えていく。

「おっ、苦しまぎれの施策発見! 『お客さんと飲みに行く』って、これ、金がかかるなぁ」

 メンバーから笑いがこぼれる。

 私が最後にまとめる。「じゃあ、来月はこの施策で目標値を決めてアプローチしよう。訪問数はリーダーに任せるから、みんなで相談してからあとで教えて。そうすると、チラシがいるよね。誰が作る?」

「じゃ、今回は僕のとこでやります。そういうこと、うちのチームの早田さんがけっこう得意だし」


 営業会議の様子は変わった。以前よりも会議の時間はかかるようになったが、このほうがずっといいと私は思う。皆で考え、皆で決めたことなら、メンバーのやる気も違うし、互いに助け合うのだ。やる気はもちろんだが、特に助け合う気持ちは、大きな生産性向上になる。営業はどうしても自分の殻にこもりがちだ。一人で考えるより、複数で考える方が、よいアイディアが格段に多く浮かぶ。


 さて、この会議を実施しようとすると必ず時間がかかることが問題になる。実際、いままでの営業会議の倍以上の時間がかかったのだ。会議自体も結論が出るまで堂々めぐりしたり、脱線したりで、効率的とは言えない。だから忙しい営業部門では、時間がかかることを理由に、結局みんなで考えることをやめてしまうことが多い。われわれは整然として議事が粛々として進み、予定通り進行する会議を良しとしてきたからだ。しかし、ここで時間がかかっても、施策実行度合いが違ってきたらどうだろうか。メンバーが心に響かない施策を形だけ叱られないように実行するのと、心から納得して、助け合いながら施策を実行することの違いは大きい。


 少なくとも会議は活性化し、メンバーと一緒に戦っていく雰囲気はできた。腹に落ちた施策をメンバーはしっかり展開してくれるだろう、と私は思った。しかし、これで十分だっただろうか。わたしはまだまだ甘かった。まだまだ、営業所の成績はいっこうに良くはならなかったのだ……


第三話 おわり