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営業マン蘇生の物語-おもしろい営業への道II-第八話

作成者 admin 最終変更日時 2012年01月19日 09時24分

第8話「ビジョンと戦略」

 

 赴任して半年後、私はとりあえず目の前の売上だけを上げよう、という悪あがきをやめた。未来に向けた施策に全員で取り組もうと思ったのだ。しかし、メンバーの雰囲気は暗い。私は、なんとか皆を元気にさせる方法はないかと考え、赴任前から心の中にあたためていたイメージを文章にした。


 次の全体会議で発表した。

「みんなが一つの方向に向かって行けるように、支店のビジョンのたたき台をつくりました。

“強く、明るく、面白いオフィスをお客様に、日本の営業を変えた男たち”、これ、どう? みんなの意見も取り入れて作りたいのだけど・・・」 元ネタは、親会社の長期計画にある良い会社構想の言葉を拝借した。

 メンバーたちは、一瞬驚き、それからなんとなくにやにやした。それは私を馬鹿にしている様子でも、ビジョンを否定する態度でもなかった。どちらかというと、それでどうするんだろう、という好奇心のほうが勝っている感じである。

 


「お客さまの会社が強くなるオフィス、でも、働く人には優しい、仕事をするのが面白くなるようなオフィス、それをうちの製品やコンサルティングで実現しようと思うんだ」

 私の言葉にメンバーの一人が反応した。

「修正しなくてもいいと思います。みんなの気持ちにも通じます。ただ、それって、実現まで時間かかりますよね。今の支店の状況を考えると悠長なことと受けとめられませんかね」

「うん。でも、時間をかけてでも、うちの商品でお客さまの役に立とうよ。今が苦しいのはオレもわかってるけど、もう少し先を見てやっていきたいと思うんだ」

 メンバーたちは、軽くうん、うんとうなずいた。

 


 どうすればこのビジョンを実現できるか、私はメンバー皆と戦略を考えることにした。まず中間目標の立案だ。メンバーたちはいろいろと意見を言い始めた。

 


「やっぱり、1年後には普通になっていたいよね」

「うん、1年目は目標100%達成だな」

「じゃあ、2年目は?」

「この間、△△支店にいる同期のヤツに、うちの支店はそのうち統合されるんじゃないの、とかってイヤミ言われたんだ。だから、2年目は会社の中で達成率No.1!」

「それ、ちょっと飛躍しすぎじゃない?」

「いや、それくらいでもいいでしょ。夢は大きく、ってね」

 


 メンバーたちの笑顔が、心なしかまぶしく見える。私は内心ほっとしながら、会議を進行した。ビジョンは合意できたから、次は戦略だ。

「よし、じゃあ、次は環境認識。みんな、ポストイットに書いて」

 私は壁に模造紙を貼った。自分たちを取り巻く社会動向や経済動向などを書いたポストイットを機会と脅威にグルーピングしていくためだ。その機会と脅威れを、自社の強みと弱み、と照らし合わせ、SWOT-Cross分析をする。このように全体会議は進み、私とメンバーたちとの意見はまとまっていった。「お客様は実践的で成果につながるかを以前にも増して求めているよね。お客様の経営層と面談し、我々の強みである実践的なコンサルティングが成果につながることを実感してもらうことがキーだな。そのためにはどしたらいい?」

「やっぱり裏付けですね。今までの案件を調べたら、裏付けになるようなデータとれますよ」

「じゃ、調べて来週までにまとめてくれないか」

「いいっすよ」

「お客様の経営層と面談する場をどう設定する?」

「一度入った案件は、報告会の場が最適ですよ。事前に経営層に入ってもらえるようにスケジュール仕掛けておけば、かなりの割合で出席いただけます。ただし初回商談は難しいです」

「じゃ、そこはオレに任せてくれ、親会社の人脈を活用してみる」

という具合で、戦略が実行策として決まっていった。

「みんな、これが組織で遂行していく戦略なんだ。これが実行できれば、必ず結果は出る!」

 私はメンバーの前でそう断言した。

 


 私自身、結果が出ることには確かな自信があった。ただ、本当はどうしてもメンバーには言えない不安もあった。結果は必ず出るのだけれども、それがいつなのか、実は私にもわからなかったのである……

 


“強く、明るく、面白いオフィス”−−私の提案したビジョンは受け入れられ、メンバーもみんなで立てた戦略がなんとなくできそうに感じたようだった。

 


「佐川、○○社さんの件、どうした?」

「はい、やっぱり部長も交えて提案しました。部長の反対意見を参考に再提案しようと思って……、今回は課長権限で導入してもらっても後は続かなくなりそうで・・・」

 あれ? と私は思った。

 ○○社では、先方の部長が佐川くんの提案に難色を示していた。ただ、その下の課長は受け入れてくれ、自分だけで決められると言っていたので、これまで佐川くんは、部長には寝た子を起こさないように対応し、課長との間で話を進めてしまおうとしていた。

 


 それに対し、私は部長にきちんと提案し、反対意見を聴くようアドバイスしていたのだが、今まで佐川くんは部長をなんとか避けて決めようにしていたのだ。その佐川くんが、先日の全体会議に参加して、この案件をより中長期的に考えるようになったのだ。

 


『先を見すえて戦略を実行しようとしてくれているんだな』

 私は少し安心した。ただし、結果がついてこなければ、いつまでもこうはいかない。メンバーのモチベーションを維持するにはオレがしっかりしなきゃ、と私は考えた。

 


 7か月、8か月……業績は上向きにはならない。私は一人ひそかに苦しんだ。『いったい、いつになったら結果が出るんだろう……』

 


 1年ほどたった営業会議の日、メンバーの中で最も優秀な原田くんが報告に立った。

「……というわけで、強く、明るく、面白いオフィスをつくるつもりで提案しました。それで次回、△△社さんの常務と面談できることになりました」

「おっ、やったな。幹部層と会えたら一つの成功だよ」

 私が健闘をたたえると、原田くんは恥ずかしそうに言った。

「でも、だからといって成約というわけではないし、まだまだ時間はかかると思います。ただ、つながりができたというだけで……」

「いや、それでいいんだ。いいか、絶対に結果は出る! 今はつらいけど、必ず成功する! そしたら、みんなでビールかけやろうな」

 メンバーたちはおかしそうに笑った。

 


 私は努めて明るく振る舞った。戦略が本当に正しいかどうかなど、誰にもわからない。いまだに結果は出ない。本社からは自分に対する批判の声も聞こえてくる。ただ、この戦略ならできるかもしれない、とメンバーに思ってもらえれば、何かが変わる、私は本能的にそう感じていた。

夢と希望があれば、必ずパフォーマンスは上がる。夢はビジョンであり、希望は達成できるかもしれないとみんなが思える戦略だ。ビジョンがあれば、「今日」しか見えないメンバーが「明日」も「あさって」も求めるようになる。そして、戦略によって ビジョン達成の道筋を信じることができる。夢と希望があれば、一人一人のモチベーションが上がるとともに、助け合おうとするチーム全体のモチベーションも上がる。人と人がうまく組み合わさると、びっくりするような知恵と力が生まれる。

 しかし、戦略が結果に反映し出すまで、必ず時間のずれがある。今やっていることが本当に正しいことなのか結果がでないまま、闇夜を手探りで進むのだ。この期間が微妙だ。

 この時に大切なのは、マネジャーの明るさだ。マネジャーの明るさは、チーム全体に伝染する。そして明るく元気なチームは闇夜でも力を発揮する。明るく前向きに考えている時は、闇を照らすいろいろなアイデアがわき、みんな助け合う。お客さまもそんなチームの雰囲気を微妙に感じ取る。でも闇の間はマネジャーが一番不安で苦しい。この時にいかに皆を結束させることができるかどうか、それはマネジャーのやせ我慢次第だ。「冬は必ず春となる」、「朝の来ない夜はない」、明るい未来を信じて、やせ我慢でいいから明るく前向きに振る舞うのだ。

 


第九話「ビジョンと戦略」 終わり

 

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