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営業マン蘇生の物語-おもしろい営業への道I-第九話

作成者 admin 最終変更日時 2010年04月28日 08時51分

第九話「ソリューション営業との偶然の出会い」

 顧客セグメンテーションをもとにしたマーケティング活動を行いだしたころ、大きなチャンスがめぐってきた。前回お話した顧客セグメントでは、Ⅰのゾーン(成長性・シェアとも高く最も重要なお客さま)にポジショニングされていた東京都のある区役所での商談である。当時は、わからなかったが、今振り返ると、まさしく「ソリューション営業」を実践できた例だった。しかし狙って行ったのではなく、偶然そうなった「ソリューション営業」だった。

 この区役所は最重要顧客であったため、自社商品の利用各部課へは常に訪問し情報収集のアンテナをはっていたが、そのなかでも企画部企画課は特に重要な部門として対応していた。企画課では、住民サービスの向上のために、さまざまな企画が実行され、自社のビジネスにかかわるケースも出始めていたからである。前年には、住民センターへの「コイン対応ファクシミリ」の一括導入などでカストマイズ商品の納入実績もあった。この自治体での新しい取り組みに関する情報は企画課に集まっていた。そして、ここでの情報から、「ソリューション営業」につながる商談が始まった。

 いつも面談していた企画課の係長から「公害対策課が新しいことを始めようとしているので、話を聞いてきたら」と紹介され、その日のうちに訪問した。公害対策課では、都庁公害対策局から発せられる光化学スモッグ注意報(5種類のレベルで発生される)の区内展開の方法を検討していた。それまでのやりかたは、都庁から光化学スモッグ注意報が発令されると区役所本庁公害対策課の無線機でまず受信する。この時、光化学スモッグのレベルに応じて、無線についた5種類ランプが点灯するようになっていた。そして区内の各公共施設に各レベルに応じた警報が無線で通報されるしくみになっていた。しかし、電波法の改正でそれまでの周波数が使えなくなることから、各拠点に配置されている無線機を新たに買い替えなくてはならない状況がおこっていた。この無線による通報システムは、本庁の無線機のそばに人がいないと、光化学スモッグの発生に迅速に対応できないといった問題があった。休日でも稼動している区の施設はあるが、本庁の公害対策課に人がいなければ、光化学スモッグの注意報は届かなくなってしまう。初めての訪問でわかったことはこれくらいだったが、これ以後、企画課の方にも加わっていただき、自社からは私以外に通信関係やコンピューターシステムの専門家が参画し、今で言う「ワークショップ」※を公害対策課のみなさんと数回行った。「ワークショップ」を重ねるなかで、新しいニーズも顕在化した。せっかく新たな買い物をするのなら、多目的に活用できるしくみにしたいというニーズである。当時、区役所の出先には、ファクシミリが設置されているところが少なく、正確・迅速な情報交換という面で問題があった。結局、光化学スモッグ注意報だけではなく、住民サービス向上にかかわる情報インフラ整備も含めて、「都庁から光化学スモッグ注意報が発令されると無人で受信し、自動的にファクシミリによる一斉同報を行うシステム」と各拠点でのファクシミリ利用の実態や要望を反映して、普通紙コピータイプのファクシミリを概要提案した。無人で光化学スモッグの5種類の注意報を判断するために、本庁用受信機の5種類のランプに光センサーを取り付け、注意報のレベルを読み取り、各レベルに応じた注意報の文書を専用PC経由で自動発信するシステムとした。公害対策課では他社にも相談していたが、弊社が区役所本庁と各出先のニーズに最も対応した提案をしたということで、受注することができた。その後、詳細仕様を固めるためにさらに数度の「ワークショップ」を重ね、概要設計・要求定義の確定・詳細設計と進んでいった。無人受信・一括配信のシステムは、外部のソフトハウスと共同で製作した。最終的な売上は、億を超え、以後のファクシミリの消耗品も入れると、営業所の売上・粗利の達成に大きく貢献した。またこのシステムは他の自治体にも紹介され、水平展開された。システム自体も「大気汚染情報提供システム」という名で、この区役所と共同特許出願を行うまでになった。

 この案件は、わたしにたくさんのものをもたらしてくれた。まず第一に、お客さまの潜在的な課題に関与できると、大きなビジネスを発掘できる可能性があるという気づきだった。今回は偶然に潜在的な課題に関与したわけであるが、これを狙って行えば、自分の営業スタイルがいままでと比べ、がらっと変わるということを実感した。「お客さまに奉仕する営業」から「お客さまに頼られる営業」への転換の可能性を感じたのである。ただ、狙ってお客さまの潜在的な課題に関与するやりかたについては、明確な答えはなく、「こまめなフォローと情報提供でお客さまからの信頼を築く」ことしか考えつかなかった。しかし、偶然であろうが、こんなにおもしろい仕事は、初めてだった。深夜に至る種々の準備も苦にならなかったし、毎日出社するのが楽しくてならなかった。

 第二に、この商談とシステム構築が、自社のさまざまな部門と外部リソースが共働するプロジェクトとなり、わたしはシステム構築の始めから終わりまでをプロジェクトマネージャー(なにも知らない稚拙なプロジェクトマネージャーだったので、名ばかりだったが)として経験することができたことである。

 この商談は、わたしに大きな成果と自信をもたらし、周囲の目も大きく変わった。わたしにこのような経験を与えてくれたお客さまと協力してくれた自社のさまざまな部門と外部パートナーのみなさんに感謝、感謝である。

 そして、気が付くと京都での新人時代にあこがれ「こうないたい」と感じた営業像に近づいている自分がいた。


※ワークショップ:複数のメンバー同士が意見交換・議論を行い、理解を深めるなかで、意見を方向付け、収斂していく場のこと


第九話終わり