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SHIEN(支援)研究会 2010年度研究発表大会のご報告(岩田 夏穂様)

作成者 admin 最終変更日時 2011年02月15日 17時21分

イベントの種類
日時 2010年04月25日
開始: 09:30 am 終了: 04:00 pm
場所 東京海洋大学
連絡先名称 東京海洋大学
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SHIEN研かわら版第4号でご案内しておりました,岩田様と大橋様の2010年度研究発表大会のご報告の全文です.

文責:岩田 夏穂様(協力:大橋 真理子様(東京海洋大学 大学院))

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会場:東京海洋大学 楽水会館

 よく晴れた4月25日の土曜日、品川・東京海洋大学のキャンパス内にある楽水会館大講堂でSHIEN(支援)研究会の研究発表大会が行われました。今回のテーマは、『人(自分を含む)の力を引き出す…』です。会場の参加者は、4,5人ずつのグループに分かれて着席しました。今回は、各講演の後に各々付箋に感想・質問を書き、グループごとにまとめて講演者に渡します。そして、最後のパネル・ディスカッションで共有するということになっています。10時30分、幹事メンバーの渡辺茂一郎さんの開会挨拶で、リラックスした雰囲気の中、始まりました。

 

1.オープニング講演 「“パラダイムシフト”と“SHIEN”考:コーズパラダイムを見据えながら・・・」

SHIEN(支援)研究会主宰 舘岡 康雄氏

舘岡氏がこれからの人間の社会活動全般の基盤になるものとして支援・SHIENを提唱される背景には、リザルトパラダイム(過去の活動の「結果」に注目する)から、プロセスパラダイム(現在起きている「過程」や「変化」そのものを重視し、その質を高める)へのシフトがあります。そして、将来の展望として、リザルト、プロセスを包括するコーズ(cause)パラダイム*1

へのシフトを提唱しています。

講演では、なぜリザルトからプロセスへのパラダイムシフトが起きたのかということについて、大きな時代の流れにおけるヒト・モノ・情報の量・質・関係性の変化に沿った説明を聞くことができました。

 *1 舘岡2006(p217)の、「コーズこそ本質で実体」という記述に基づいています

リザルトパラダイムからプロセスパラダイムへのパラダイムシフト

 リザルトパラダイムは、活動の範囲やその影響が限定され、結果が出るまでの変化が少ない時代に合理的な考え方でした。それは、管理によって「させる・させられる」者が効率的に任務を遂行し、その結果を重視するものです。結果を生み出した経過とそれに関わる人間・組織等の関係性のとらえ方は、線条的(リニア)・固定的・静的です。それに対し、プロセスパラダイムは、大量のヒト・モノ・情報が非常に広い範囲で行き交い、活動の結果が出るまでの間にさまざまな変化にさらされる今の時代のものです。活動にかかわる人々は、目下動いている状況の質を上げるために、支援を通して「してあげる/してもらう」者となります。それは、活動・人・組織の関係を複雑・可変的・動的なものとしてとらえる考え方です。

 このプロセスパラダイムの話で印象に残ったのは、うまくいっていないように見える現象を切り取って問題として対象化し、それを解決しようとするのではないというものでした。たとえば、失敗に見える教室運営は、トラブルではなく動的な活動において貴重な意味を持つものであるととらえ、そこから次なる活動をどのように創発するかを考えることが重要です。教師自身もその営みの一部と認識します。そう考えると、「ダメな生徒」も「ダメな教師」もいなくなります(私も大学教員で、現場での評価のし方はまだまだ「リザルト的」だけど、少しずつでも「プロセス的」になるように工夫したいなあとしみじみ思いました)。

 また、SHIENマネジメントについてのお話では、支援するよりも支援される方が難しいということから、プロセスパラダイムでは、「してもらえる能力」が重要になるという指摘にも強く共感しました。こういう力は、ともすれば個人的な資質に帰されがちで、そういう部分も大きいと思います。しかし、自分の周りにいる卓越した能力を持った人の関わり方を観察し、それに近づいていこうとすることは、よりよく生きるために重要なことのように感じます。

 

コーズ(cause)パラダイムへの展望

「過去」に注目するリザルトパラダイム、「現在」を重視するプロセスパラダイムと進んできて、次に来るのは「未来」に焦点を当てるコーズパラダイムです。講演では、この3つの考え方の違いについて、病気の治療を例に説明がなされました。

 リザルト的考え方だと、「病気になったからそれを切ったり薬を飲んだりして治す」(管理・統制)、プロセスでは、「病気を今の生活改善のきっかけとする」(イノベーションの創発)、そしてコーズでは、「免疫力を高めて病気にならない体をつくる」となります。「将来を起こす種」(=cause)(舘岡 2006:220)として今何をするかが問題になる、そういう意味で、コーズパラダイムは、未来に焦点を置いた考え方であるといえます。

 病気にならないように予防に力を入れる未病治療の場合、現在の生活の在り方を管理するという意味ではプロセス的だし、病気にならない未来を作るという意味ではコーズ的に思われます。このように、パラダイムの区分は、はっきり分かれるものではなく、重なったり、一方がもう一方を内包したりするものととらえるべきでしょう。

支援という面から考えると、プロセス的支援では、まだ自己と他者の間の支援だったのが、コーズ的支援は、お互いの利益のためにせざるを得ない行為となります。相手のために「してあげる」ことは、自分のためになることですから、「してあげること」=「させてもらう」わけです。このように、自己と他者の境目が消え、また、これまで「支援する・される」とみなされてきた活動も、あえてそのような表現をする必要がなくなるぐらい当たり前の振る舞いになる、それが舘岡氏の示すコーズパラダイムの姿だと思いました。

 

支援とSHIENについて

この研究会の名前は、SHIEN(支援)研究会で、「SHIEN」がメインで「支援」のほうがかっこに入っています。それは、支援を介した関係を従来のものと区別したいという舘岡氏の意図からです。これまでの「支援」は、支援するもの・されるものの間に重なりがない状態で、支援という価値が一方的に提供され、受とられるものということでした。しかし、プロセスパラダイムにおいては、支援するもの・されるものの間に重なり=「相互浸透過程」を作り、その重なりにおいて「してあげる/してもらう」を交換します。そのような支援の在り方を「SHIEN」とする、そう理解しました。

 ここで私が思ったのは、支援する方がその振る舞いに自分自身が救われたり、支援される方がその行為を受けることで相手を解放したりすることがあるということです。そのような現象も含めて支援について議論するには、「AはBを支援する」という二項対立的なニュアンスのある言葉から脱出する必要があります。さらに、コーズパラダイムでは、支援における自己・他者の境界がありません。舘岡氏の「SHIEN」には、そのような新しい支援の在り方を示そうという意思が込められているのではないかと思いました。

参考文献:舘岡康雄(2006)『利他性の経済学‐支援が必然となる時代へ‐』新曜社

 

2.ワークショップ型講演 「問いかけが創る「最高の居場所」

代表者 最高の居場所コミュニティ主宰 中島崇昴氏

ワークショップチーム:小田 美奈子氏 上西 正之氏 生田 早千江氏

 

オープニング

12時20分、次は「最高の居場所コミュニティ」の皆さんによるワークショップです。ご挨拶のあと、会場が暗くなり、音楽が流れてきました。波の音も聞こえてきます。そして正面のスクリーンには、「あなたは今ここに来ています」という言葉のあと、「最高の居場所」のイメージを表す美しい写真と静かなフレーズが映し出されました。なんだかとても心地よくなりました。

 続いて、コミュニティの始まりと活動の紹介がありました。中島崇昴氏のご著書である『私が会社を変えるのですか』が反響を呼び、コミュニティが生まれたそうです。コミュニティが最終的に目指すグランドビジョンは、「世界全体を最高の居場所にする」。そのために、まず、それぞれ自分の居る場所、その中でも一番長く居る場所である職場を最高の場所にしたい。これがコミュニティ・ビジョンだということです。中島さんの「今日のこの時間も最高の場所にしましょう」という呼び掛け、そして、普通の拍手と最高の時間にしたいと思ってする心のこもった拍手の違いを実感することで、「小さなアクションが変えられないものを変えられるかも」という気分になってきました。そして、今回のワークショップのルール(互いの敬意、傾聴、貢献、知と体験のつながりと活用、守秘義務)の説明の後、いよいよワークショップが始まりました。

 

ワークショップ

最初の活動は、「ご縁あたためタイム」です。ネーミングがしゃれてます。自己紹介と最近の良かったことを一つ話してから、「雰囲気作りワーク」をします。このグループの出会いを素晴らしいものにするために、どういう自分になって、どう雰囲気作りに貢献するのか、ということを書いてみる時間です。こういう作業をすると、ワークショップに参加する自分のイメージがはっきりして、ただ何となく時間を過ごすのではもったいない!と思えてきます。

 次に、2人ペアになって、「支援される人・されない人」とは、どういう人かをイメージし、それを相手と共有しながら展開していきます。相手と話すことで、どんどんイメージが広がっていきます。それから、グループでキーワード書き出しブレスト勝負!グループごとに書きだしたキーワードの数で競争です。「支援される人」のイメージとして出てきた言葉は、たとえばこんな感じです。明るい人・感謝できる人・素直な人・計算のない人・自ら動く人・情熱のある人・へこんでいる人・輝いている人・成長しようとしている人・どうして欲しいかリクエストしてくれる人・エゴの無い人・明鏡止水の境地の人・おっちょこちょいの人・期待したい人・ビジョンを持っている人・一生懸命な人…

勝負の結果は…私たちのチームが51個で、なんと一位でした!

 エピローグとして、一人での振り返り、そしてそれをグループで共有する時間がありました。今回のワークは、支援を受けやすい人をイメージするというシンプルな内容でしたが、自分だけで考えるよりも対話のほうがイメージが何倍にも膨らむことを改めて実感しました。最後に「明日からの一歩」として、自分がどうしていきたいのかをグループのメンバーに宣言し、ワークショップが終わりました。

 

 この後は昼食の時間でした。参加者のみなさんは、グループごとに和気藹々と盛り上がっていらっしゃったようです。私も、同じグループになったIKさん、IMさん、THさんと、お仕事や支援研究会との関係等、いろいろお話しできました。また、お互いに共通の知人を発見したりして面白かったです。

 

3.【講演1】「ひと満足の好循環スパイラルの構造‐支援関係が創る組織の姿」

 医療法人財団 献心会 川越胃腸病院常務理事 須藤 秀一氏

(川越胃腸病院HP http://www.kib.or.jp/)

 

 昼食後、13時50分からは須藤理事による川越胃腸病院での支援の取り組みについての講演です。 川越胃腸病院は、創立以来40年間、病院の経営理念を大切にする理念経営を実施しています。その成果は、毎年多くの手術、内視鏡検査を行っているのにもかかわらず、これまで1度も訴訟が起きていないこと、現在、一般的に多くの病院の経営状態が非常に深刻であるなかで、経営が良好であることに表れています。また、病院の規模の割に委託・非常勤を含めて職員数が多いとのことで、どうすれば多くの職員が経営陣と一丸となって今の奇跡のような運営状況を生み出せるのか、その経営の在り方に注目が集まっています。

 講演では、具体的な事例や観察がふんだんに紹介され、病院の経営理念がどのように浸透し、職員の具体的な実践に織り込まれているかということがよくわかりました。

病院の経営方針の原点

 川越胃腸病院の理念の柱は、顧客を含むステイクホルダー(関係者)全体の幸せと病院の発展性と安定性を追求すること、および病院が社会に生かされることです。この理念は、病院内の闘争の不毛さを実感したことが原点です。争いや交渉で勝つことに幸せや希望はない。その想いから、病院の基本的なスタンスを結果追求からプロセス追求へと変えようという経営陣の努力が始まりました。そして、「人が生かされて活きる組織」が目標として改革が進められました。ここで出た「発酵と腐敗は同じもの」というエピソードは印象的でした。映画「降りてゆく生き方」に出てくる酒造りをしている人の言葉だそうです。発酵と腐敗は、どちらも同じものですが、人間にとって良いものを発酵、悪いものを腐敗と呼びます。本質的に同じであれば、腐敗ではなく発酵としての現象にすることは可能なはずです。このお話を聞いて、「病院は、今はうまくいっていないように見えるが、必ず支援行動が生まれるような組織になれる。そうなるために、経営陣と職員が「共創」(お互いに力を合わせる)を生み出していこう」という経営陣の姿勢が理解できたように思いました。

 

ES・CS経営と成果

職場での支援行動が生まれる原点は職員満足(ES:Employee Satisfaction)です。職員満足が患者満足(CS: Customer Satisfaction )を生みます。患者満足は病院に対する社会の評価(SS: Social Satisfaction)につながり、それは再び職員満足となります。これが好循環・上昇スパイラルです。

 では、働く人のヤル気はどのように起こせばいいでしょうか。アメリカでは福利厚生・給与が動機づけに与える影響が大きいのに対して、日本の病院では、社会貢献・使命という項目が非常に高くなっています。職員満足は経済的満足・心理的満足・社会的満足により満たされるわけです。ES調査全国比較(全国20数病院)によると、川越胃腸病院の職務満足因子、社会評価因子ですべて平均以上でした。

 職員には、多くの委託・非常勤職員がいます。そういったポジションの人の職場に対する意識を調べるのは難しいのですが、患者さんが満足していれば、委託職員の満足度も高いはずだと考えました。患者さんアンケートでは、たとえば栄養科・整備課の評価が年々上昇しています。栄養科の取組みの例として、年間70回の行事食の予告ポスター掲示が紹介されました。思うように食べられない患者さんがほとんどなのに、そういうポスターを貼るのは配慮に欠けるのでは?という声もあったそうですが、見るだけでも、食べる楽しみは伝わるはずだということで実現させ、好評でした。

 整備課の例では、院内の草花設置活動が紹介されました。職員は院内に草花を置くと感染症の危険もあることを院内勉強会等で知っていて、どうすれば安全に植物を置けるかを自分たちで考え、植物の葉を丁寧に拭くなどの対策を自発的に行っています。また、患者さんからの頂き物を自分達で増やしたりしているので、コストもかかっていません。この取り組みも、患者さんから高い評価を受けています。

委託職員の満足度が高いことは、勤続年数が他の2倍と長いこと、調査に協力した委託職員全員の「ここで働くことが誇りになっている」というコメントからもわかります。その背景には、患者さんからのお菓子が委託職員にも平等に配られることや、勉強会には職員全員が参加できる等、自分たちが専任の職員と対等に扱われているという実感があります。このエピソードを聞いて、一見ささいなことに見える日々の振る舞いの積み重ねが信頼関係を作り、それが結果的に大きな力を生むのだと思いました。

 また、病院の成熟度は、トップレベルの判断よりもミドルレベルの人の判断に表れると言われますが、川越胃腸病院の場合、トップよりもミドル以下の組織成熟度評価が高いという結果でした。

 患者満足を推進する取り組みとしては、医療サービス対応事務局を設置があります。患者さんの情報管理、評価への対策、フィードバック等の積み重ねの結果、部署別で顧客満足度は年々上がっています。ドクターに関しては、最初は非常勤の医師が多かったためもあって低かったですが、他の評価が上がったことの相乗効果もあり、満足度が上がっています。

 さらに、CSとESの相関を高めるさまざまな努力がなされています。一つは、患者さんの声をきめこまかく吸い上げるルートを整備し、その結果を掲示してどの職員もそれを共有できるようなシステムが創られています。また、イベント行事の企画と実行、ボランティアの導入も積極的に行われています。

 

SS第三者評価の導入

 このような川越胃腸病院の変化のきっかけなったのは、平成9年に初めて第三者評価を受けたことです。当初、職員は外部の評価を受けることに理解を示しませんでしたが、最初の受審でさまざまな気づきがありました。今では、自分たちで点検項目を作るまでになりましたが、経営主導の状態から、今の「経営陣と職員の共創」にいたるまで、10年かかりました。

 

 この、外部評価が意識の変化に及ぼす影響の大きさは、見逃せないことだと思いました。特に、委託・非常勤職員は、自分の仕事が社会的に評価されていることを実感する機会がほとんどないに等しいことを考えると、自分を対等に扱ってくれる組織が客観的に評価され、職員全員がその評価を共有できれば、自分の仕事に対するプライドが生まれ、大きな動機づけになると思いました。

 リザルトパラダイムにおける管理・統制型経営からプロセスパラダイムにおける支援型経営への転換は、地道な実践の積み重ねと思いきった発想の転換によって実現可能であり、想像以上の大きな成果を活動に関わった全員にもたらします。川越胃腸病院の改革の道のりは、それを見事に実証した事例であることがよくわかりました。

 

4.【講演2】「知的障害者に導かれた企業経営と国への期待」日本理化工業株式会社会長 大山泰弘氏

(日本理化学工業株式会社HP http://www.rikagaku.co.jp/

 

 最後のご講演は、国会でも話題になった知的障害者の方々を多数採用している日本理化学工業株式会社の大山会長です。日本理化学工業株式会社は、粉の出ないチョークの輸入から始まり、後に製造も行い、現在は国内シェアー30%のチョークメーカーです。知的障害者雇用を始めて50年、現在従業員の7割を占める知的障害者は、そのほとんどが生産ラインに所属しています。

 講演は、現在のような経営形態が作られたきっかけから始まりました。とても穏やかなお声と裏腹のドラマティックな展開に、どんどん引き込まれていきました。大山氏のお話には、経営者としての強い信念と事業のパートナーである障害者従業員への尊敬と愛情があふれていて、終了後、拍手がなかなか鳴りやみませんでした。

 

知的障害者雇用の始まり

 昭和35年、近くの養護学校の先生に卒業生(15歳)の雇用を熱心に頼まれました。仕事が決まらなければ施設に行くことになると聞き、2週間の実習だけという約束で受け入れました。そして、実習の最終日に、従業員から彼女達二人が一生懸命なので残してあげて欲しいと頼まれ、正式に採用したのが始まりでした。

その後、禅のご住職から聞いた言葉で障害者の多数雇用を決意しました。禅のご住職に「うちの会社には字も読めない、数も数えられない人がいる。福祉施設にいれば苦労が無いのに毎日きて働いている」と話しました。すると、そのご住職は、「物があれば人間は幸せですか。人の幸せとは、愛されること、必要とされること、ほめられること、役に立つことです」と言われました。その言葉で、「施設が人を幸せにするのではなく、企業が幸せにするのだ。そうなら、なるべくたくさんの人が幸せになれる会社を目指したい」と思いました。そのために、特別融資制度を活用して知的障害者雇用を本格的にスタートし、昭和50年に初の障害者多数雇用モデル工場第1号を神奈川県に開設しました。

 

 障害者従業員とのSHIEN

 多くの障害者を雇用し、経営を維持していくには、創意工夫が必要です。たとえば、ある従業員は、障害が重く、なかなか作業が続けられませんでした。しかし、彼が会社に来るまでに2回信号を渡ってくることから、信号は理解できるということに気づきました。そして、彼らの理解力の中で仕事ができるようにするにはどうすべきか考え、チョークの材料の計量の仕事を任せてみました。彼は、計算や字を読むことは苦手ですが、信号の色は識別できるので、その力が使えるように工夫しました。すると、以前にこちらが簡単だと思ってやらせた仕事だと、歩き回ったりしてできなかったのに、この複雑な計量の仕事は一生懸命やってくれるのです。そのとき、仕事は、本人に本当にわかってやってもらうことが大事であり、仕組みさえできれば彼らも活動に参加できると知りました。そういう大切なことを、障害者従業員が経営側に教えてくれるのです。

 

才能を引き出すのは大人の責任

工場見学に来た青山学院の5年生の生徒から来た手紙で気づいたことがあります。その手紙には、「従業員の人たちがチョークを作れるのはすごい、僕には作れない。神様はどんな人にも世の中の役に立つ才能を与えている。僕は他のことで頑張る」とありました。それを読んで、その才能を引き出すのは大人の責任であることに気づきました。神様は、人の役に立つことを喜びと感じることができる者を人間として誕生させたのだと思います。

海外の人からも取材がありますが、日本には職人文化があるから彼らも仕事ができるのではないかと言われました。欧米はマニュアルから入るから、字が読めない人は雇用の対象にならないが、親方が弟子に技術を伝える職人文化がある日本は、障害者雇用はむしろ進んでいるかもしれません。

 

2009年度渋沢栄一賞受賞

 この分野での受賞は予想外でした。経済貢献しているとは思っていませんでしたが、そういう見方もあると気づかされました。

 福祉とは物に恵まれ、心にも恵まれるという意味です。本当の福祉とは、働く権利と義務を明記した憲法の精神に則った制度であるはずで、決して施設に送ることではありません。経済的にも、日本の障害者手当ては年間150万円ですが、施設に入れば500万円の運営費がかかってしまいます。中小企業での雇用によって、彼らは経済的・精神的な自立・自由を手に入れることができますし、国にとっても企業にとっても利に適うといえます。

 

新しい製品、キットパスの開発

 障害者雇用の取り組みは、新しい製品の開発につながり、早稲田大学との連携によって、「キットパス」の商品化が実現しました。キットパスは、ガラスに描けて、簡単に消せる文房具です。ホワイトボードに書くときに使うマーカーは、粉が出て体に悪いですが、このキットパスは、粉がまったく出ないので、吸い込む恐れもないし、服や手も汚れません。いつか、キットパスが日本中のマーカーにとって変わられる日が来ることを願っています。

 

5.パネル・ディスカッション 「してもらう能力と明るい社会」

登壇者:須藤 秀一氏(川越胃腸病院)、大山 泰弘氏(日本理化学工業)、伊藤 秀典氏(顧客ロイヤルティ協会)、舘岡 康雄氏(静岡大学)

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ネルディスカッションの様子 (左より伊藤氏、大山氏、須藤氏、舘岡氏)

 

 パネル・ディスカッションでは、各グループでまとめられた質問の中から登壇者がいくつか選び、答える形で進められました。

 

1)須藤理事への質問

質問1:職員に見られた初めの変化は何でしたか。

答え : 私が関わり始めた昭和59年頃は、全員ばらばらで仕事をしており、病院に対する思いも各人で違っていました。手始めのTQC(total quality control)活動として行った保育室を作る試みも、いろいろな要望が出すぎて失敗しました。職員と経営側が要求する側とされる側という対立関係にあり、10年間も対話が成立しませんでした。しかし、理解を示してくれる職員が少しずつ現れ始めたこと、そのころから成績評価制を導入し、特に病院経営に対する評価の比重を高め、さらに全職員と面接したことにより、共感してくれる人が増えました。大きなきっかけは第三者評価です。外から見た自分たちの病院の評価が報道、社会的反応を通して目に見える形で示されたことで、職員の態度に変化が起きました。病院業界は一般企業に比べて顧客満足の意識・対応が遅れていたので、第三者評価を受ける事は必要だと思いました。その結果、評価をされて職員が自分たちの実践を意識するようになりました。

 

質問2:職員の人数が多いとのことですが、経営的には大丈夫ですか。

答え :給料は平均水準より上の基準を決めているが、賞与は売り上げに応じています。また、全体の65%を人件費率と決めていて、成績評価によって傾斜配分をしています。これは職員に説明してありますので、自分たちの利益を自分に配分してもらうように、努めます。限られた原資を配分してくれているのだから、最大限の努力をしようと思ってくれていると思います。

 

質問3:会議はどのように行われ、どのように共有されていますか。

答え :1ヶ月に1,2回、毎日患者さんの声を回覧して、それにコメントを入れてもらい、会議の議題に載せるものを決めて、議論します。結果は、ネットで共有しています。

 

質問4:組織成熟度の判断基準は?

答え :6段階になっており、 一番上は「組織が自主的に利他性を組織化している」と考えています。

その場合の利他性とは、一緒に全員が良くなっていくということです。

 

質問5:この理念を実現した経営層の取り組みは?

答え :副理事長、看護部長と頻繁に会議しています。役員同士でも連絡を取り合っています。そうすることで、それぞれの思いや考え、視点がつねに共有されるようにしています。

 

質問6:望月院長はどんな方ですか。

答え :こんな苦労した方はいないと思います。人の痛みがわかる医師です。また、以前はまったく経営に興味がなかったのですが、トヨタから講演を頼まれ、自分の話が「経営」の話であることに気づいたのをきっかけに、興味の火がついたようです。

 

質問7:職員が誇りを持つようになったきっかけは?

答え:内部のものが評価することも大事ですが、外部からの評価が非常に重要だと思います。たとえば、他の病院で働いている委託職員の反応から、自分たちの川越病院のよさが実感できる、そういうことも、そこで働く人のやりがいにつながっており、病院もそういう人に生かされていると思います。

 

2)大山会長への質問

質問1:キットパスができたきっかけは何ですか。

答え :粉が出ないチョークができたらいい、ということで研究していましたが、川崎にモデル工場ができたおかげで、産学協同の研究部門で外部(早稲田大学)の協力が得られました。その着想は、知的障害者職員が窓ガラスにいたずら書きをしていたのを布で消したことです。そこから、ガラスに書いても消えることを発見し、商品展開できるようになりました。

 

質問2:「キットパス」はホワイトマーカーの代わりになりますか。

答え :そのために作り始めました。クリーナーが商品化されればマーカーを一掃するつもりです(笑)。

 

質問3:障害者とのコミュニケーションで難しい部分は?

答え :障害者は感性が鋭く、人の良し悪しの選別が健常者より厳しいです。健常者側がうわべだけでなくきちんと向き合って付き合う努力が必要です。しかし、彼らのコミュニケーションは、ストレートでシンプルでわかりやすいです。

 

質問4:厳しさは必要ですか。

答え :間違いなく必要です。入社の際には、身の回りのことができる、意思表示ができる、一生懸命仕事をする、周りに迷惑をかけないといったことの条件として提示しています。周りに迷惑をかけたら、すぐ家に帰します。もうしないと戻ってきても、いつまでも同じ間違いをする場合は対応を考えますが、成長が見られたら、それを認めて機会を与えるようにしています。以前に重度障害の人で何十回も帰された人がいましたが、働く中で次第に間違いをしなくなりました。このことに関して、新聞記者の人から、「働くということはリハビリ効果もある」というコメントをもらったこともあります。

 

質問5:大山さんにとって生きるとはどういうことですか。

答え :生きる力とは、幸せに生きる力です。人のために役に立つ、必要とされるということが幸せになるために必要ですが、今は、愛されるために求めることばかりになっているのではないかと思います。愛されるために何をしたらいいか、その努力をすることが必要でしょう。

 

質問6:企業風土を支えるために何をしていますか。

答え :自分は特に何をしている、ということはありません。障害者の純粋な気持ちとそういう気持ちに応えようと努力する健常者の態度がこういう風土を創ったと思います。

 

質問7:最初に工場に入った人についてですが、15歳で施設に入ると平均寿命はどのくらいですか。また、その人たちは今おいくつなのでしょうか。

答え :知的障害者の寿命はせいぜい45歳といわれています。しかし、最初に入った2人の女性は、現在66歳で、96歳の母親と同居しています。このことからも、働く、生きがいを感じるということは、生きる力となり寿命を延ばすことがわかります。

 

質問8:障害者の雇用は、今、どうなっていますか。不況の影響が心配です。

答え :影響はまちがいなくあり、障害者雇用はより厳しくなっています。しかし、地方での障害者雇用を実践しているところもある等、明るいニュースを聞くこともありますが…。政府がすべての企業に障害者を××パーセント使いなさいと義務づけることは間違いです。憲法がすべての国民が働く権利と義務を定めているのですから、障害者雇用によって企業にメリットがあるように、国が保障すべきです。それも、企業で働けるレベルの障害者だけではなく、企業で働けない障害者のことを考えた制度作りが必要です。今の北欧のような仕組みができれば、日本でも共生社会ができると思います。

 

まとめの言葉

熱気に満ちたディスカッションは、講演者の次の言葉で締めくくられました。

 

伊藤氏「こういう話を伺っていると、日本はこれから良くなる、ということが実感できる」

大山氏「障害者をかかえる家庭のことに思いをはせると、本当に国の責任において働けるようにしてもらいたいと思う」

須藤氏「病院もそうだが、働いている人が幸せになれるような企業でなければならない」

舘岡氏「日本で新しいマネジメントへの模索が始まっている。素敵なことが始まっている。小さなことからはじめていこう」

 

 2010年度の研究発表大会は、本当に聞きごたえのある講演ばかりで、10時半から夕方6時すぎまでの長時間であったにもかかわらず、あっという間に過ぎてしまいました。経営・企業の在り方を考えることは、今、私たちが他者との関係をどう扱っているのか、幸せをどうとらえているのか、そして、これからどのような方向に行こうとしているのかを考えることなんだなあと、ワークショップや講演を通してしみじみ感じました。自分と他者をしなやかにつなぎ、解放するSHIENは、これからの日本にとってますます重要になってくることを確信した次第です。

 


編集局より:日本理化学工業の大山 泰弘会長、川越胃腸病院の須藤 秀一様より写真の掲載許可を頂きました。ここに厚く御礼申し上げます。

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